神経伝達物質主な神経伝達物質 アセチルコリン一番最初に構造や機能が解明された神経伝達物質です。 神経を興奮させる働きがあり、学習・記憶、レム睡眠や目覚めに関わっています。 アセチルコリンは脳のほかに筋肉や心臓の神経にもあります。脳内のアセチルコリンは知的活動、特に記憶との関係が注目されています。老年痴呆いわゆるボケの原因の代表はアルツハイマー病と脳血管性痴呆ですが、アルツハイマー病の患者では脳内のアセチルコリン濃度が低下しています。したがって、アルツハイマー病の治療方法として、アセチルコリンの合成を増やすか分解を抑えることが考えられます。まず、アセチルコリンの産生を増やすために、その原料であるコリンやレシチンを食事から摂取する方法がとられましたが、これはうまくいっていません。次に考えられたのがアセチルコリンを分解する働きのあるアセチルコリンエステラーゼという酵素の作用を抑制することです。こちらのほうは物忘れなどの痴呆症状に効果が認められて、塩酸ドネペジルという薬が臨床的に使用されています。現在、同様の薬物の開発が進められています。
ノルアドレナリン神経を興奮させる神経伝達物質です。不安や恐怖を引き起こしたり、目覚め、集中力、記憶、積極性、痛みを感じなくするなどの働きがあります。またストレスとの関連が深く、ストレスがノルアドレナリンの働きを高めます。 脳幹の橋にある青斑核からノルアドレナリン神経が出て、前頭葉や帯状回、扁桃体、視床下部、海馬などに伸びています。ノルアドレナリンは神経症やパニック障害、うつ病と関係していると考えられています。青斑核が感覚情報から危険で有害な情報を探知すると、ノルアドレナリン神経の活動性が増加し、不安や恐怖といった精神状態が作り出されます。たとえば、大きな音などで猫を驚かすと、青斑核の神経細胞が興奮します。また、青斑核を破壊した猫を驚かせても、不安恐怖反応はありません。つまり、ノルアドレナリンは不安恐怖状態と深い関係をもっているのです。
ドーパミン神経を興奮させ、快感と陶酔感を与えます。また攻撃性、創造性、運動機能などを調節する働きがあります。 ドーパミンは運動の調節のほかに、情動や認知機能に大切な働きをしていると考えられています。パーキンソン病では線条体のドーパミンが不足するために、線条体のアセチルコリン神経を抑えることができず、興奮が高くなりすぎます。この興奮が、視床、運動野、脊髄を通って筋肉に伝わる結果、パーキンソン病に特有の手足の震えやぎこちない動きが発生します。パーキンソン病の患者にレボドパというドーパミン類似物質を投与すると、症状が改善します。一方、幻覚や妄想などの症状を示す統合失調症では、ドーパミン系の機能が過活動になっていると想定されています。現在、臨床で用いられているハロペリドールやクロルプロマジンをはじめとする抗精神病薬は、いずれもドーパミンD2受容体をブロックして、ドーパミンの作用を抑える働きがあります。この抗精神病薬の副作用はパーキンソン症候群です。ドーパミン受容体にはD1からD5までの5種類ありますが、D4受容体遺伝子には48塩基が2〜8回繰り返す構造があり、人によって繰り返しの数が違います。統計的には4回の繰り返しをもつ人が多いことがわかっています。新奇性探求という性格特徴をあらわす用語がありますが、これは、探求心旺盛で衝動的、気まぐれ、短気といった傾向を示します。驚くことに、この新奇性探求の強い人は7回の繰り返しをもつことが多いことが指摘されています。また、落ち着きのない多動性障害の患者でも、7回の繰り返しをもつことが多いといわれています。
ギャバ(γアミノ酪酸)神経の働きを鎮めるアミノ酸です。不安を鎮める、睡眠、けいれんを鎮める、筋肉の緊張を解く、などの働きがあります。 GABA(ガンマ-アミノ酪酸)は、大脳皮質や小脳、海馬、脳幹部にある抑制性の神経伝達物質であり、不安やけいれんと関係があると考えられています。このGABAに対応する受容体にはA、Bの2種類がありますが、GABA-A受容体はベンゾジアゼピン受容体と共合しています。べンゾジアゼピン系の代表的な抗不安薬(精神安定剤)であるジアゼパムはGABA-A受容体のサブユニットに結合し、GABAの作用を強化させます。また、アルコールはGABA受容体に影響を与えて不安を解消します。
セロトニン行動には抑制的に働きますが、気分は興奮させる方向に働きます。脳のどの部分でセロトニンが不足しているかによっても異なる病気としてあらわれます。体温調節、血管や筋肉の調節、攻撃性の調節、運動、食欲、睡眠、不安などに関わっています。 セロトニン神経は縫線核にはじまり、脳全体に分布しています。特に扁桃体や視床下部、大脳皮質に多く、したがって、セロトニンが低下すると感情や食欲、性欲、睡眠の障害が出やすくなります。自殺したうつ病患者の脳脊髄液を調べると、セロ卜ニンが極端に低下しています。1950年代後半からうつ病の治療に使用されているイミプラミンという薬は、セロトニン・トランスポーターとよばれる神経伝達物質の再吸収ポンプの働きを抑えてシナプスのすき間のセロトニンの濃度を上げる作用があります。イミプラミンに似た薬が多数開発されていますが、いずれも分子構造でベンゼン環が三つつながっているので、三環系抗うつ薬とよばれています。この薬は抗うつ効果はすばらしいのですが、口の渇き、便秘、排尿困難といった副作用が出やすい薬です。三環系抗うつ薬はセロトニン・トランスポーターのほかに、アセチルコリン受容体やノルアドレナリン・トランスポーターなどに結合するため、このような症状をひきおこすのです。1974年にセロトニン・トランスポーターだけに結合するフルオキセチンという選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が開発されました。副作用が少なく、すぐれた抗うつ効果があるので、現在、数種類が臨床的に使用されています。セロトニン・トランスポーターの遺伝子の上流には、44個の塩基が挿入されている人(l)とされていない人(s)の二つのタイプがあることがわかっています。面白いことに、このlとsの割合には人種差があって、日本人は白人に比べてsタイプが多いのですが、このsタイプはまた神経質な人に多いことも指摘されています。このことは、まじめで几帳面、慎みぶかいといった日本人の国民性と関係しているのかもしれません。
グルタミン酸神経を興奮させるアミノ酸です。てんかん発作に関わっています。
グリシングリシンも抑制性の神経伝達物質です。グリシン受容体はα1とβという2種類のたんぱく質から形成され、塩素イオンを通過させる作用があります。米国東部のメーン州にフランスから移住してきた人たちがいますが、この人たちの間に「ラター症候群」という遺伝性の病気がみられます。この病気は驚かされると派手にびっくりするという特徴があります。ラター症候群の原因は、グリシン受容体のα1たんぱく質を構成するアミノ酸のうち、271番目のアルギニンがロイシンに置き換わることによって、塩素イオンが受容体を通りにくくなるためであることがわかっています。
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